言語文化学コース Linguistics and Literature

岩田 礼 (IWATA Rei) 教授

[研究領域] 中国語方言学、音声学
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(1)高校時代は、歴史、特に日本の古代史が好きで、大学に入ったら日本史か歴史言語学を専攻するつもりだった。それが図らずも、外国語学部中国語学科なる所に入学してしまった。中国語の成績は不振。さらに言語学の授業に出てもよく理解できない。「オレは言葉には向いていないのだ」と絶望した。3年生の秋、同級生達が「就職」を考え出す頃、ひどい流感を患った。やっと熱がひいた時、枕元にあった井上光貞の本(確か中央バックス)を読んで悟った。「一番好きなことを勉強してみよう」。その後、邪馬台国本を漁り、当時鈴木武樹という人が主宰していた"東アジアの古代文化を考える会"にも通った。そんな回り道をして選択したテーマは、「中国語の歴史の研究」であった。日本に有坂秀世というスゲー学者がいたことを知って興奮した。

(2)言語の歴史を研究する方法の一つに、言語地理学がある。遺伝学者が現存する人類のDNAを素材にして人類進化の歴史を研究するのと同様、現存する方言を地図上に示し、分布を観察することで、古い言葉の形を復元し、そこから現代に至る変化の歴史を再構成する方法である。そのために、㈰音声学を勉強し、㈪中国の方言を調査しよう、と考えた。しかし私の学生時代、1970年代に普通の学生が中国に行くことは不可能だった。そこで、当時世界最先端の技術を誇った医学部の音声研究施設にもぐりこみ、音声生理の実験に没頭した。それはミクロの世界であり、邪馬台国は遥か彼方の世界となってしまった。もはやこれで飯を食うしかない、と思われた 1979年に中国への国費留学生派遣制度が始まった。そして翌年2月には中国のある町で念願の方言現地調査を実施することができた。

(3)自分が営業向きだと思っている営業マンなど誰もいない」と言われている。みんな実戦で鍛えられて一角の営業マンになる。私はよく中国人に「あなたの性格は私達の方に近い」と言われるが、これは長年、方言調査などを通じて涙ぐましい努力を積み重ねてきた結果なのである。

(4)中国語方言の全国地図を作り、それに基づいて中国語の歴史を再構成する研究に取り組んでいる。ここでいう「中国語の歴史」とは、庶民、農民の言葉の歴史である。中国は文献の国であり、文字化された言語を参照することも不可欠であるが、地図の語る言葉の歴史は、文献が語るそれとしばしば一致しない。そのようなモノの見方は、本家中国にはなお少ない。それだけにやるべきことは山ほどある。例えば、「普通話」(標準語)がどのような方言を基礎に、どのように成立したか、実はまだよくわかっていない。しかしそれらの課題に全力で取り組む日本の研究者はなお少ない。夢と野心をもった後継者を育てたい。

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