歴史文化学コース History

根津 由喜夫 (NEZU Yukio) 教授

[研究領域] ビザンツ帝国史
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皆さんは「ビザンツ帝国」という国を御存知でしょうか。多くの人は、「そういえば、高校の世界史で少しやったかな。でもあまりよく覚えてないんだよね」程度の感想しか持っていないのが実情に近いところでしょう。実際、多くの人がそうした印象を抱く理由のひとつは、この、時間的にも空間的にも遠い国の歴史を学ぶことが、現代の日本に生きる我々にとって、何の役に立つのか分かりにくい点にあるでしょう。

明治維新以来、日本の西洋史研究は、いち早く近代化を実現した欧米先進国に関心を集中させてきました。近代化以前の古代や中世の研究についても、中世では英独仏を中心とした西欧の主要国、古代では西欧文明のバックボーンとなったギリシア・ローマ時代が優先的に取り上げられてきました。そのため、私が学んだ頃の高校の世界史では、西ヨーロッパの中世史に関しては、ゲルマン民族の大移動、フランク国家の成立と分裂、叙任権闘争に百年戦争…と詳しく学ぶのに対して、分裂したローマ帝国の東半分であるビザンツ帝国の歴史に関しては、ユスティニアヌスの再征服事業に触れた後はおざなりな説明を付されただけで片付けられ、突然、1453年にオスマン・トルコに滅ぼされる段になって再登場する、という中途半端な扱いに終始していたのです(今は、少しは改善したのでしょうか)。とはいえ、教科書の中の扱いが少ないことは、そのままその歴史が価値がないことを意味するわけではないでしょう。我々が知らないとしても、そこには一千年以上の歴史が流れ、その間に一貫して人々の暮らしが営まれてきたのです。

私が大学に入って研究の対象としてビザンツ帝国の歴史を選んだこと自体には格別、重大な決意があったわけではありません。当初から西洋史を専攻することは決めていましたが、最初はそれ以上に関心を絞っていたわけではなく、漠然と古代・中世史のいずれかの時代を学びたいと思っていた程度でした。最後にビザンツ史に辿り着いたことについて、強いて理由を挙げれば、生来、へそ曲がりな傾向があったため、多くの人が研究しているような西欧の主要国は意識的に除外し、むしろ周縁部の国に関心が向かったこと、何より、未開拓の研究分野に対する素朴な好奇心が大きく作用したように思われます。とりわけ、古来、多くの民族が移動し、交流を重ねた地中海世界には漠とした憧れを抱いており、それが最終的にビザンツを研究対象に選んだ決め手になったのかもしれません。実際に勉強を始めてみると、この分野の多彩な魅力に魅了されました。どんな出自の者でも、運と才能に恵まれれば、驚くほどの栄達の機会をもたらす開放的な社会のシステムは特に印象的でした。そんなわけで、もうかれこれ20年以上、研究を続けることになりました。しかし、まだ前途は遠く、道のりは尽きません。なにせ相手は一千年以上の歴史を誇っているのですから。

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