人間科学コースHuman Sciences

佐々木 拓 (SASAKI Taku) 准教授

[研究領域] 西洋倫理学(17-8世紀道徳哲学・現代自由意志論)
写真

私の研究領域は西洋倫理学ですが、その分野は広く、古典文献研究、応用倫理学、そしてメタ倫理学に及びます。古典研究としては、17-8世紀に活躍した道徳哲学者であり政治思想家でもあったジョン・ロックの道徳哲学を扱っています。応用倫理学としては、依存症の倫理学ということで、例えば重度の薬物依存症の患者さんが違法薬物を使用することに対して本当の意味で非難ができるのか、ということを研究しています。最後に、メタ倫理学の分野では、私たちが「自由意志」や「自己決定」ということで何を意味しているのか、といった問題を考察しています。それぞれの分野で扱う対象はかなり異なりますが、そこには共通したテーマがあります。それは「自由意志」です。

私たちには「自分の行動は自分がコントロールしている」という感覚があるのが一般的でしょう。何が起こるのかをよく考え、衝動にとらわれずに選んだ行為の場合、この感覚は非常に強いものになると思います。このような場合、「それは私がしたことだ」と確信できると思います。まさに私たちが自由意志を発揮し、自己決定をした事例です。しかしながら、最近の脳神経科学の知見をみると、このようなコントロールを実際には私たちはもっていないということを示唆するものが多くみられます。私たちの行動は意識的な決定よりも、無意識的な(特に脳内の)過程によって決定されているというものです。特に依存症のような事例では、症状が重くなると、一見したところ普通の人とほとんど変わらないように仕事ができている人が、実は薬物やアルコールといった依存性物質の摂取に関してはほとんどコントロールができていないということが、脳神経科学の知見からも示されるようになりました。普通の人に見られる行動が実は当人の自由意志の結果ではないと分かったとき、私たちはその人たちの責任をどう考えたらいいのでしょう。このような場合には、私たちは「自由意志」や「自己決定」、「コントロール」といった概念を考え直さなければなりません。そして、その内容に従った基準(条件)によって、例えば薬物依存症の患者さんの行動などを再評価する必要があるでしょう。科学技術が急激に進歩する現代では、その必要性はますます高まっていくでしょう。このような関心の下で、依存症患者さんの行動についての責任評価(道徳的非難の差し控えや軽減)が可能になるような自由意志概念を探究するというのが目下の私の研究目標です。

哲学・倫理学的な概念を再検討するためには、そもそもそれがどのような内容として捉えられていたかを知る必要があります。ジョン・ロックは中世の自由意志概念を批判し、近代のはじめに自然科学の影響で流行した「決定論」という考えとの整合を試みた思想家です。自由意志をめぐる哲学的問題には中世以来つづく長い伝統があります。このような過去の議論を学ぶことで、自らが問うている対象を明らかにし、時には新しい(現代の私たちにはない)考え方を学ぶのも自由意志を議論する上で重要なアプローチです。

 哲学や倫理学の面白いところは、概念を学ぶところにあります。例えば、自由意志について新しい概念を発見した人には、周りの人々の行動がだいぶ変わって見えるはずです(これについては、「自由意志など存在しない」という考えをもつにいたった人も同様です)。哲学・倫理学的に重要な概念は、いわば世界を眺める眼鏡のようなものです。哲学・倫理学の問いに真摯に向き合う人は世界を今までと違った仕方で見直すチャンスを手にします。歴史的な文献を読むことで、また現代の自然科学が明らかにする知見と対比させて考えることで、このような概念を検討し、私たち人間の在り様、ひいては人生の意味を考えるというのが私の研究です。
l Contents Menu
ü