人間科学コース Human Sciences

田邊 浩 (TANABE Hiroshi) 教授

[研究領域] 社会学理論、現代社会論
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2007年の流行語として、「食品偽装」という言葉がトップテンに選ばれています。産地や原料自体を偽ったり、賞味期限を改ざんしたりなど、食品製造にまつわる多くの問題が暴露されました。食品だけではありません。その2年前には、「耐震強度偽装」の問題が世間をにぎわせました。ある強度の地震に耐えることができる構造物としての設計がなされていないにもかかわらず、そのことが隠されたまま多数のマンションやホテルなどが建設されました。さらに、偽装という言葉こそ使われませんが、「年金問題」もあります。年金のための保険料をきちんと納めていたにもかかわらず、そのことがしっかりと記録されていないために、多数の人々に年金給付がなされないかもしれないという驚くべき事態が生じました。これなどまさしく国家による偽装といえるでしょう。

確かに「偽装」は、近年の日本社会が抱える問題のキーワードのようです。では、これらの問題が、なぜかくも多くの関心を集めたのでしょうか。それは「信頼」ということに関わるからです。実際、偽装であることが明るみに出て、どのような帰結がもたらされたでしょうか。私たちはもはや、この食品は食べても大丈夫なのだろうか、このマンションは地震にも耐えられるのだろうかなど、いちいち不安に駆られることとになります。そして、いまや将来年金はきちんと受け取れるのだろうかなど、自分たちの国さえも信じることができない状況が訪れているのです。

私たちは他者と関わることなく生きていくことはできません。その他者がよく知っている、親しい人だったら、とくに信頼には及びません。そもそもその人をよく知っているし、なにかあれば直接確かめることができるからです。ですが、現代社会では匿名の他者とやりとりしたり、現代社会に特有の制度やシステムに依存したりせずに生活することは困難です。であるがゆえに、そうした匿名の他者やシステムに対する信頼が必要とされるのです。逆にいえば、信頼を打ち壊すということは、現代社会にとってきわめて破壊的なことだといえるのです。

こうしたことはほんの一例なのですが、私は、やや抽象的に社会の基本的な仕組みを考えながら、「現代社会」を成り立たしめている条件について研究しています。よりよく生きたいという動機に根ざしながら、自らが現に生きている社会についてもっと理解を深めたいと考えている人は多いでしょう。そのとき、社会学は有効な手段として利用可能です。むろん、社会はあまりにも複雑であるがゆえに、社会学がよりよく生きる道を指し示してくれるわけではありません。ですが、少なくともいろいろな道がある、別の社会のあり方もありうる、ということを教えてくれるはずです。そうした社会学の実践的意義に少しでも貢献できるような研究をするために、皆さんとともに学んでいきたいと考えています。

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