心理学コース Psychology

谷内 通 (TANIUCHI Tohru) 教授

[研究領域] 学習心理学・比較心理学
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私の研究領域は、学習心理学と比較心理学にまたがっています。心理学における「学習」とは、生物が経験を通じて行動を変容する過程を指します。ですので、ある人から嫌がらせを受けたために、その人を見つけただけで不安になり、避けてしまうというのも、経験を通して新たな行動パタンが学習された例になります。経験と行動変容の関連を検討する上で、人間は過去経験によって特有の行動パタンを獲得していることに加え、実験的に可能な操作が限定されるために、学習心理学では動物を用いた基礎研究が大きな柱となっています。

具体的な研究課題の1つとしては、学習心理学の知見を家畜動物の行動制御に応用するという研究を、石川県立大学との共同研究を通じて継続しています。学習心理学の行動制御法は、動物が自ら望んで特定の行動を行うことを可能にする点で、従来の家畜管理学にはない大きな可能性を持っていると考えています。

最近手がけている別のテーマとしては、生物が経験を通じて「性的な嗜好性」を獲得するメカニズムに関する研究をネズミを用いて行っています。人間はフェティシズムや幼児性愛のように、本来であれば性的対象になりえないものに対して性的な嗜好性を獲得することがあり、性的嗜好性の逸脱は、社会的な脅威にもなってきています。その一つのメカニズムとして「性条件づけ」という学習による可能性を考え、その獲得と修正に関する基礎研究を進めています。

学習心理学における動物は、いわば「人間の代わり」です。一方で、動物がどのような心の働きを持っているのか、「動物の心」を主役として研究する領域が「比較心理学」です。我々は自分以外の他者の視点に立って考えることができますが、この能力は人間に特有かもしれないと考えられています。また、我々は対象が「同じ」であると認識しますが、「同じ」というのは対象間の「関係性に関する概念」であり、そのような概念を適用して初めて生じる認識です。そのような概念の獲得は霊長類に限られると考えられていましたが、その他の哺乳類や一部の鳥類にも認められることが明らかとなってきています。当研究室の研究で、ネズミに「数」の概念があることを示すことに成功した例もあります。その他、「がっかりする」という感情は爬虫類以降に生じた可能性も指摘されています。また、我々の意識のように、目の前の情報に応じて柔軟に行動する能力は魚類にはないといわれていたのですが、当研究室の研究で、魚にもそのような能力の片鱗が認められることが明らかになってきています。

このように、言葉でやり取りすることのできない動物が、どのような心を持って、どのようにこの世界を見ているのか、行動実験を通じて証明する試みは、夢とやりがいのある、楽しい研究です。もしこのような研究に関心があれば、ぜひ一緒に研究しましょう!

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