心理学コース Psychology

荒木 友希子 (ARAKI Yukiko) 准教授

[研究領域] 健康心理学・臨床心理学
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私の主履修分野は「心理学」です。「心理学」という言葉から皆さんは何を連想するでしょうか。心理学ときいてカウンセリングや臨床心理士のことを連想したり、心理学を学んだら人の心を見抜けると考えたりするかもしれません。実際には、心理学は非常に幅広い領域を包括した学問です。たとえば、私が所属する心理学の学会は、日本心理学会、日本教育心理学会、日本健康心理学会、日本発達心理学会、日本パーソナリティ心理学会、日本行動療法学会、といったようにその名称は多岐に渡っています。その他にも、実験、認知、動物、音楽、生理、社会、文化、産業、矯正など様々な単語が心理学という言葉の前につくのです。このように心理学という学問が多種多様な領域から構成されているということは、人の心が非常に複雑であることを如実に物語っています。心理学を学んだら人の心を見抜けるというものではなく、心というものは様々な角度から多面的に光を当てて探索する必要があるのです。

頑張りたくても頑張れない。一生懸命やればできると分かっていてもやる気がおきない。何をやっても駄目だと思ってしまう。このような状態に陥っている生徒や学生に対してどのように援助すればよいのか。こういった観点から、私は悲観主義や無力感に関する実証的研究をおこなっています。アメリカで提唱された学習性無力感理論によれば、“どんなに頑張っても自分の行動は成功に結びつかない”という経験を何度も繰り返すと、“次もまたうまくいかないだろう”と予測するようになり、その結果、本来は簡単に解けるはずの易しい課題や状況でもうまくやれず、感情や動機づけにも問題が生じ、無気力な状態に陥ると説明されます。この理論はイヌの実験から始まったもので、その後人間を対象に数多くの実験研究や調査研究がおこなわれており、教育場面や臨床場面においても理論の適用が試みられています。

世の中には同じような失敗をしてもひどく落ち込む人もいればまったく落ち込まない人もいます。私は、成功や失敗の原因をどのように考えるかという原因帰属の仕方、思考の柔軟性、ストレスへの対処方法といったものが無気力な状態の改善や予防に対して非常に重要な意味を持っているのではないかと考え、学習性無力感理論をもとにこれらの要因を中心として研究を続けています。実験手法を工夫したり、生理的指標を用いたり、幅広い年齢層を対象に調査をしたり、アメリカと日本の文化の違いを比較したり、多角的視点と研究方法をあれこれ用いて人間の無気力な状態に迫ります。しかし、人間はこの理論のように単純明快に説明できる存在ではありません。理論を用いて説明できることとできないことを明確に区別し、認識する必要があります。ひとつひとつの研究からいえることはほんの些細なことかもしれませんが、些細な知見を着実に積み重ねていくことが無気力な状態に陥っている人を救う手だてのひとつになると信じて研究しています。

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