言語文化学コース Linguistics and Literature
上田 望 (UEDA Nozomu) 教授
[研究領域] | 中国古典小説研究、中国伝統芸能史研究 |
---|
わたしの研究対象は、1)『三国志演義』(日本では普通 『三国志』 と呼ばれています)等の中国古典小説、2)古典小説の周辺にある中国伝統芸能、です。
子供の頃から『三国志演義』が愛読書だった私は、大学で主履修分野を選ぶときに、中国語中国文学にするか、東洋史に進むかで迷いました。しかしながら、自分の関心が文学の世界にあったことに気付き、中国文学の専門課程へ進学して以来、現在に至るまで、『三国志演義』やこれと関わりの深い『隋唐演義』などの歴史小説を研究しています。
中国の古典小説の成立は、口語体小説に限っても12、3世紀にさかのぼることができ、歴史は非常に長いのですが、詩や文に比べて低俗なものと見なされてきたため、本格的な研究が始まったのは20世紀に入ってからです。また、『三国志演義』の場合、キャラクター、主題、思想研究が重視されてきたため研究に偏りがあり、わかっていないことが意外にたくさんあります。私は、一体いつ誰がどのような材料を使って『三国志演義』を作り上げたのか、どのようなかたちで中国や日本を含む東アジアで普及していったのか、どのように理解されているのか、という問題に一貫して取り組んでいます。
『三国志演義』以外の歴史小説もまた同様で、中国ではかなり流行し、日本にも江戸時代に輸入、翻訳されているのですが、いくつかの要因があってあまり定着しませんでした。近年、田中芳樹の『隋唐演義』や北方謙三の『楊家将』などで少し知られるようになってきましたが、これらの作品は、日本人の中国小説理解の盲点なのではないかと秘かに考えています。
日本の中国古典小説研究は、本家中国を除けば世界で最も盛んにおこなわれていると言っても過言ではありません。それは、日本人が昔から中国の小説を愛読し、大切にし続けてきたということと同時に、外国文学として理解できていない点がまだまだ残っているためであり、引退?する時までこの研究は続けていこうと思っています。
小説以外に強い関心があるのは、中国の伝統芸能です。私の大学時代の恩師が中国演劇研究の専家であったことも関係していますが、私自身、『三国志演義』の成立や流布に演劇や語り物がどのように関わっていたかに興味があり、留学時代から農村を中心に調査の真似事をしてきました。ここ数年は、主として江蘇省、浙江省で様々なジャンルの伝統芸能を見て回っています。古典小説研究の同業者からは、「なんで農村に?」と奇異な目で見られることも多いのですが、日本では手に入らない珍しい資料が見つかったり、文献を読んでいただけでは理解できないことが、ある時突然、目から鱗でわかることもあり(ごく稀にですが)、小説研究とともにこれも生涯続けていこうと思っています。