心理学コース Psychology

吉村 晋平 (YOSHIMURA Shinpei) 准教授

[研究領域] 実験臨床心理学

2020年度4月に臨床心理学の教員として着任しました。専門は実験臨床心理学です。これまでにネガティブ感情およびそれに関連した認知を通してうつと不安のメカニズムを検討してきました。簡単にどのような研究をしてきたかをご紹介します。
 うつ病の人々には自分に対するネガティブな認識があると言われています。そこで、うつ病患者の自己認知を検討する実験課題の作成と妥当性の検証を行い、作成した実験課題を実施しながら機能的核磁気共鳴画像装置(fMRI)の測定を並行して行うことで、内側前頭前野を中心とした自己認知に関わる神経回路の賦活を喚起することを明らかにしました。そしてうつ病患者に対して同様の実験課題とfMRIを行い、健常者の結果と比較したところ、うつ病患者においてネガティブな自己認知を行っている最中に内側前頭前野及び前帯状回を含んだ神経回路の賦活が上昇するだけでなく、それらが一定程度うつ病の症状を説明することをパス解析によって明らかにしました。
 一方、うつ病の治療に有効とされる心理療法である認知行動療法は、うつ病患者の自己に対するネガティブな認知のバイアスが抑うつを導くという理論的基盤があります。そこで、認知行動療法をうつ病患者に実施した上で治療前後の脳活動の変化をfMRIによって検討しました。その結果、認知行動療法を行うことによって自己認知に関わる神経回路の活動が変化することが明らかになりました。これらの知見は、認知行動療法の基盤となる理論であるうつ病患者のネガティブな自己認知が健常者と共通の神経回路が関与していること、その神経回路の亢進がうつ症状を喚起すること、そして認知行動療法がこれらの神経回に作用することを示しています。
 上記の研究以外に、予期不安に対する感情制御の神経基盤、ネガティブ感情による疼痛認知の増幅に関わる神経基盤、うつ病・パニック障害・疼痛に対する認知行動療法の効果研究、脳機能画像データの機械学習によるうつ病の新規診断方法の開発、言語による嫌悪条件づけとその特徴の検討、うつ・不安における解釈バイアスの長期的影響などを研究してきました。
 これらの研究は、抑うつや不安が人間のある種の特徴であり、特定の条件のもとでは容易に起こり得るものであるということの証左です。一方で、それはうつや不安と言った心理的問題に対処するためのヒントにもなります。しかし、いまだ抑うつや不安を克服することはできておらず、新たな知見がますます求められています。我々の研究室は、神経科学、機械学習など様々な方法・技術を用いて、うつや不安を予測する要因は何か、またうつや不安を緩衝する要因は何か、どうすればうつや不安を制御できるかを研究しています。既存の臨床心理学の枠にとらわれない、多様な方法論を持つ研究室として展開して行きたいと考えていますので、興味関心のある方の参加をお待ちしています。

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