躍動する「人文学類」

人文学とは

人文学は「人間」を探究する学問です。つまり,行動,思想,文化,歴史,言語,文学といった人間の多様な営みやその産物に現代的視点から解釈を施し,意味を与え,普遍的な人間的価値を考究するとともにこれを希求し,新しい知を創出していく,人間探究の基礎的学問なのです。そして,人文学の学びは,専門領域に関する知識にとどまらず,それを広く応用する力,豊かな教養,多面的視野,そして適切な自己表現と柔軟なコミュニケーション能力を身につけることも目指しています。

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人文学の「ニーズ」?

残念なことに,「社会のニーズ」や「時代のニーズ」という尺度で測られるとき,人文学という学問は実用性に欠けるものとして,ともすれば消極的・否定的な評価が与えられがちです。私が学んでいる哲学などはいわゆる「虚学」の筆頭に挙げられることもあります。じっさい確かに,人文学を修めたからといって,それが就職活動や資格取得に直ちに有利に働くということはあまりないかもしれません。しかし,人文学を志す人たちには──そしてそのような人たちであるからこそ──,実用性や効率性,経済性を求める社会や時代のニーズという尺度だけでものを判断する人であってほしくないし,むしろそうした尺度を無批判に受け容れることなくいったん相対化できる人であってほしいのです。

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人文学を学ぶことの意味

少し乱暴な分け方ですが,私たちが生き延び,生存するために必要な知識を与えてくれるのが理系学問であるとすれば,その知識からは直接導き出すことのできない「善き生とは」という問いへの答えを求め続けるのが人文学だとも言えます。生の基盤において,科学では扱うことのできない数量化不能な人間的価値についての知識がなくては,「生き延びのための知識」も私たちの「幸福」──他のものの手段とはなりえない究極の生の目的──に資することは困難です。要するに,これは正しいのか,これは美と言えるのか,善とは何か,といった普遍的な人間的価値への不断の問いかけは,私たちの豊かな生にとって不可欠であり,人文学は人間に対する深い理解(本当の意味での「教養」)とそのような能動的な問いかけの姿勢を育てていくものなのです。したがって,人文学は,どのような時代のどのような社会においても,その存在理由を失うことはないでしょうし,それを学んだ人は,社会に出ても,人間性と社会性に富む豊かな資質と能力でもって,国の内外を問わず有為な人材となるものと私は信じています。

ダイナミックな人文学

人文学というと,「机にじっと座ってひたすら本を読んでいるもの」といったふうに,あまり活動的ではないイメージをもつ人がいるかもしれません。しかし,実は人文学的アプローチは,文献読解だけでなく,実験,社会調査,フィールドワークなど,とても多面的でダイナミックなものなのです。その研究手法や個別の対象に応じて,金沢大学人文学類には,多様な学生の志向性に応えるために,心理学,現代社会・人間学,考古学・文化資源学,歴史学,日本・中国言語文化学,欧米言語文化学,言語科学の7プログラムが設置されており,学生はいずれかのプログラムを選択し,プログラム内で提示される標準的履修モデル(総計28モデル)を参考にしながら,自分の興味・関心に合わせて自由に専門の学びの設計をすることができ,関心が広がれば他プログラムの科目も副専攻として学ぶことができます。泉鏡花や室生犀星,西田幾多郎や鈴木大拙といった多くの文人や哲人が輩出した金沢の地で,「人間とは何か」ということについて,大いに学び,大いに思索し,大いに語ってみませんか。

金沢大学 人文学類長
三浦 要

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