言語文化学コース Linguistics and Literature
新田 哲夫 (NITTA Tetsuo) 教授
[研究領域] | 言語学 |
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【私の研究とフィールドワークの日々】
私は現在、日本語の方言、特にその中でもアクセント・イントネーションの音調の研究を中心的に行っています。
アクセントに関して、明らかにしようとしていることは次のことです。
- (1)日本語の諸方言のアクセントを比較することによって、日本語の古いアクセント組織を明らかにする。
- (2)日本語のアクセントには、「無アクセント」と呼ばれるアクセントのない方言が存在するが、それらが成立した過程を明らかにする。
これに関連して、無アクセント地域とその周辺部のイントネーションが重要な鍵を握っていると考えられます。そこでイントネーションに関して、次のことを行っています。
- (3)無アクセントとその周辺部のアクセント地域のイントネーションがどのような性質をもっているか明らかにする。
以上が、方言の音調に関して行っている研究の一部です。
ひと言で言うと、日本語のアクセント変化に興味があります。京都アクセントについては相当昔の記録があって、それを読み解くことでかなりのことがわかるのですが、地方のアクセントの歴史に関しては、書かれた文献は皆無です。そこで、フィールドに出かけ、データを集め、異なるバリエーションから古い姿を推定していくしかありません。
私はよく録音機(最近はハードディスク付きICレコーダー)とパソコンをもって調査に出かけます。行き先は様々ですが、山間部や離島の場合が圧倒的に多い。というのは、周辺部ほど共通語化の波を受けず、独特の姿を受け継いでいることが多いためです。調査の後、地元の温泉宿でその日記録したデータを整理したり、その意味づけを考えたりするのが楽しい時間の一つです。ときには思いがけない発見があり、忘れなれない調査になることもあります。それは言語学をやっていて本当によかったと思うときです。
もう一つ、私がここ10年来取り組んでいるのは、石川県の白山麓に位置する白峰という地域の方言を「記述」することです。「記述」というのは、音韻・アクセントのほか、文法の詳細を記録し、方言辞書を作る作業です。簡単にいってしまえば、それらを見れば、その方言の全容がわかる本を書くことです。白峰方言は日本語史の研究上、重要な方言です。あと十数年もすれば古い伝統的な姿が消えるかもしれません。記録を急ぐべきです。この作業は、世界各地で言語学者が取り組んでいる「消滅の危機に瀕している言語」の記録・保存の流れとおなじ方向で行われています。