言語文化学コース Linguistics and Literature
阪上 るり子 (SAKAGAMI Ruriko) 教授
[研究領域] | フランス語学フランス文学 |
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【フランス語学との付き合い】
フランス語の勉強を始めて数年たった頃の和文仏訳の授業で、学習した文法規則にのっとってフランス語文を作成したはずなのに、「そのようには表現しません」、あるいは「それだと別の意味も伝わってしまう」などの指摘を受けたときに不安を感じたことがあります。それは、自分が言いたいことが、フランス語母語話者にきちんと伝わるフランス語でさっと口から出るようになるには、一体どれほどの勉強が必要なのか、という不安です。それがフランス語に深入りすることになった発端です。
外国語としての「ことば」の勉強を英語で始め、その次にフランス語という順で進めていくと、この二つの言語の共通点や差異を考えながら、そしてまた母語である日本語との共通点や差異を意識しながら学習を続けることになります。その過程で使いこなしの必要を最も強く感じたのが動詞の活用形の用法です。フランス語で正しいと言える文を作るには、少なくとも主語と動詞を並べ、動詞は適切な活用形にする必要があります。動詞が一つの活用形となって登場することにおける意味という問題について、最初は適切な使い分けができるようになりたいという実用面が出発点だったので、これほど深入りするとは思いもよりませんでした。
自分にとって納得できる説明を求めてさまざまな研究書を読む、という方法を選んだものの、この分野は多くの人の興味を引いてきたので、さまざまなアプローチの仕方での膨大な数の研究があることを知ったときには、既に学習を始めてからかなりの年月がたっていました。非常に興味深いと思えるアプローチの仕方にやっと出会ったのですが、その理論の全体像を理解した上で自分で援用できるようになるためには、論理学や数学的な知識、コンピュータープログラミングの基本など、一見、言語習得とは関係がなさそうな分野の勉強にも手をつけなくてはなりません。学問分野の隣接性や多様な知識の必要性を実感し、今もその延長上にいると言えます。
「ことば」の勉強に深入りして、ひとつの表現や構文の使用の背景に目を向けると、その表現なり構文を用いるときの使い手の頭の中で起こっていることを考えないと「ことば」は分からない、うまく使いこなせるようにならない、ということに気づいてきます。最近は、動詞の問題に限らず、さまざまなフランス語表現にそのような問題意識をもつ事が多くなってきました。このような姿勢でフランス語と向き合っている、のが私の研究と言えるでしょう。
フランス語に深入りするはめになったきっかけとしては、フランス語で書かれた作品を、その文体をじっくり味わいながら楽しんで読めるようになりたい、という別の理由もあったのです。でも、それを実現するための道のりは遠そうだけれど、「いつかは」と思いながらその「いつか」が来ないのでは、という気がしなくもないと感じることもあります。