言語文化学コース Linguistics and Literature

佐藤 文彦 (SATO Fumihiko) 准教授

[研究領域] 近現代ドイツ・オーストリア文学
写真

私の主履修分野はドイツ文学ですが、とりわけオーストリア(もまたドイツ語圏なのですよ)、ウィーンの文学を中心に研究を続けています。そしてその際、「ドイツそのもの」を真正面から論じるというよりも、どこかでそれを相対化するような、斜めからの視点を維持したスタンスで取り組んでいます。

具体的には、パロディ文学への関心が強いです。ゲーテやシラーに代表される古典的なドイツ文学が、ウィーンの大衆演劇の舞台ではどう演じられたのか。芝居の筋が世俗化されるのはもちろんのこと、標準ドイツ語や詩的な文学言語で書かれたセリフは、ウィーン方言の話し言葉へと脱パトス化されて板に乗せられました。19世紀前半のウィーンでは、こういったパロディ劇がさかんに上演されましたが、そうすることで劇場を中心に、ドイツとは異なるオーストリア(ウィーン)独自の言語意識なり、文学伝統が形成されました。

ドイツ語圏の歴史や文化をオーストリア中心に考えてみると、ハプスブルク帝国の存在の大きさに気づかされます。そしてこの国がドナウ河流域に築かれたことを忘れてはいけません。この数年来、私はドナウ河流域(たとえばハンガリーやバルカン半島)の文学や文化の諸相にも注目してきました。もっとも、ハンガリー語やセルビア語のできない私は、ドイツ語や英語に頼るしかありませんが、それでもヨーロッパ有数のこの大河について、現地での調査などを行う過程で、ドイツ語圏の言語文化を広く中・東欧の文化のなかに位置づける視点、流域全体を包括するドナウ文化圏のひとつとして捉える視点を獲得することができました。ウィーン、ブダペスト、ベオグラード、それにプラハを加えたハプスブルク帝国領内の都市文化を結ぶことによって、「ドイツそのもの」にこだわりがちな従来のドイツ文学研究の相対化を図る試みは、先述のパロディ文学への関心とともに、私の研究の大きな柱のひとつです。

他にも過去には1920〜30年代の日本とドイツのプロレタリア革命童話の比較研究に取り組みました。両国の「国民童話」であるところの「桃太郎」やグリム童話を時事的・政治的に改変(=パロディ化)した作品の分析を通じて、プロレタリア革命童話の実験性、文学伝統の継承と刷新を試みた20世紀都市モダニズム文学との類縁性を指摘しました。

現在はこの研究を発展させる形で、1950〜60年代の東ドイツ(東ベルリン)で成立・展開した社会主義児童文学を追いかけています。もはや失われた国家の、いまや失われつつある文学ジャンルへの導き手は、オーストリア出身のひとりの女流作家です。中国にも滞在したことのある彼女の生涯と文学活動を発掘することが、いまの私にとって最大の関心事です。

l Contents Menu
ü