言語文化学コース Linguistics and Literature

高山 知明 (TAKAYAMA Tomoaki) 教授

[研究領域] 日本語音韻論・日本語音韻史
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日本語というと、漢字と平仮名、片仮名から出来ていると考えている人も多いと思います。しかし、人間は、文字学習以前の幼いうちから否応なく言葉の習得を迫られます。その時、直に接するのは音(おん)です。言葉の基本は文字ではなく音(ただし同じ言葉でも手話は身体の動きがその役目を果たす)です。もちろん、日本語も例外ではありません。

例えば、漢字で「ケイタイのジュウデンキ」が書けなくても日常生活ではさほど困らないかもしれません。しかし、ある単語の発音が思い出せない、わからないとなると、これは大ごとです。大人の日本語でも音の果たす役割は文字とは比べものにならないくらい大きいといえます。

私の中心的なテーマはこの日本語の音に関する問題です。もう少し具体的には、日本語が音の面から見てどのように組み立てられているのか、そして、その組み立て方が過去から現在に至るうちにどのように変化してきているのか、それについて調べたり、考えたりすることです。

同じ日本語でも発音が変わってきています。その中でも私が興味を持っているのが、音の組み合わせ方に関する変化です。たとえば、平安時代の「むくつけう思されて」の「けう」は [keu] と発音されていたと考えられます。この時代、一つの単語のなかに[eu]のような音の連続が出てくることは必ずしも珍しくありませんが、その後、日本語から姿を消していきます。これが再び現れるのは、「デウス」のような外来語の登場を待たなくてはなりません。音の組み立て方の原則が変化しているわけです。

さて、昔の日本語の音はどのように知ることができるのでしょうか。当然、音声の記録が残されているのは最近に限られますから、より古い時代の音をそのままの姿で調べることはできません。しかし、いろいろな間接的な手がかりによって、ある程度までなら窺うことができます。

また、音の変化は、「発音が楽になるように」変わるという単純な説明では済ますことができない、複雑な現象です。身近な例でいえば、年配の世代の「フンイキ」が、若い世代で「フインキ」になるとされる変化があります。数年前、講義の折に尋ねたところ「フインキ」と思っている(あるいは思っていた)学生が大半を占めました。「ン」と「イ」が入れ替わり、発音が随分違うように思われますが、日常の発音では大差なく、極端なことを言えば、同じ発音を上の世代は「フンイキ」と聞き、若い世代が「フインキ」と聞くという事態さえありえます。背景の一つにこの語が日常よく使われ、早い発音で会話のなかに頻繁に登場することが考えられます。一口に音の変化といっても、その正体をどのくらい突き止められるか、というのも大きな課題です。

究極の目標としては、音の変化という現象を通じて、日本語や言語についての理解を深めたいと考えています。

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